アフガニスタンの放牧風景。

パシュトゥーンの牧夫たちが放牧に用いる道具は、ごく普通のものである。
まず、二メートルほどの杖。それは、ヒツジをたたいたりついたりするほか、牧夫が深い溝を飛び越えたりするときにも用いられる。
しかし、この杖のなによりも不可欠な用法は、隣近所のテント集落のイヌに襲われたときに、それを撃退することである。
多くのイヌは獰猛で、走っている車に吠えながら追いつき、体当たりするくらいである。多くの牧夫の足には、イヌに噛まれた傷跡がある。
この杖に、頭のターバンを載せて高く掲げることは、羊群には強い刺激となる。群の動きを急に止める必要があるときに用いられる。
(略)
杖や投石器以外、牧夫だけが用いる道具はない。
パシュトゥーン遊牧民の家畜群所有者も、雇われた牧夫も、質を別にすれば、同じような袖の長いチャパンという外套をはおっている。
彼らが袖に手を通すのは、冬季だけである。このチャパンが、夏の牧野の野外での寝泊りに重要なことはすでに述べた。
このチャパンについて重要なことは、これを着て両腕を横に広げると、牧夫の体が幅三倍くらいに見えることである。
当然、こうすることによって牧夫は羊群に強い視覚的な刺激を与えることができ、急に群の動きを止めることが可能になる。

松井健による、アフガニスタンのパシュトゥーン遊牧民などへの調査が非常に興味深い、「遊牧という文化」から、放牧の技法に関する章を。
チャパンというと、ハーミド・カルザイ氏が羽織ってたやつ、というイメージが強いかと思うんですが、そんな使いかたをするものだったとは。

ひつじ話

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