九陽啓泰(続き)

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九陽啓泰
松竹梅の背景に小童牧羊(九頭)の図
羊は陽と同音同声にして、九羊は九陽に通ず。

お正月も近づいたところで、中国の吉祥図を一枚。
野崎誠近「吉祥図案解題」より、「九陽啓泰」の図です。「九陽啓泰」の語の意味はこちらで。絵柄そのものののどかさとあいまって、めでたさもひとしおです。
ところで、一ヶ月ほど前にご紹介したレンブラントの「羊飼いへのお告げ」ですが、来年(2011年)3月から、東京・上野の国立西洋美術館と名古屋の名古屋市美術館を巡回する「レンブラント 光の探求/闇の誘惑」展で、現物が観られるみたいです。行かねば。

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フランチェスコ・ズッカレッリ 「アルカディア的風景」

ひつじ話

「アルカディア的風景」 「アルカディア的風景」(部分)
18世紀のヨーロッパ全域で展開されていた、アルカディアの神話と結びつく自然観を示すのがフランチェスコ・ズッカレッリの風景画である。
《アルカディア的風景》に見るとおり、ズッカレッリの絵画では、幸福な農夫たちが踊るような足取りで、彼らにとっての友である自然の中を歩む。

「ヴェネツィア絵画のきらめき」展カタログ

18世紀イタリアの風景画家フランチェスコ・ズッカレッリの「アルカディア的風景」です。
18世紀ヨーロッパのアルカディア的な自然観については、ヴァトーの「羊飼いたち」などがご参考になるかと。

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中世ヨーロッパの宇宙観と差別

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私たちは一つの宇宙、一つの地球で暮らしていますが、中世の人は一般的にいえば自分の村、自分の町が世界でした。
(略)
中世人が生きていた空間は一つではなくて、二つだったということです。(略)
すべての幸福も不幸も外から来る。病気も天災も外から来る。
その発想の根源には、現世をコントロールできないという発想があったわけで、政治も、自然現象もコントロールできない。
(略)
なぜ差別されたのか。この問題は、私の考えでは、キリスト教と関係があります。(略)
キリスト教の教義のうえでは世界の成立からキリストの生誕、死と復活をへて、最後の審判へ向かう歴史がはっきり示されていますから、ダイモーンというものを認めないのです。
(略)
問題は、一つの宇宙という考え方を強制したことにあります。この影響が大きいのです。
一つの宇宙を強制するということは、恐れることはなにもないということになります。森を恐れる必要はない。
羊飼いはなぜ恐れられたか。彼は一人で野原の中で暮らした。
そういうことは中世では考えられないことなんですね。
彼は何らかの形で大宇宙と折り合いをつけてるに違いない。気味が悪いということがあって、羊飼いに対する恐れが生まれたのです。

フローベールの「紋切型辞典」アルフレッド・サンスィエ「ミレーの生涯」などでお話したヨーロッパの羊飼いイメージについて、もう少し。
阿部謹也「ヨーロッパ中世の宇宙観」より、外界とかかわる能力を持つために畏怖された職業が、キリスト教の教義のもとに賤視の対象となっていく過程を。

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動物と攻城機械の関係

ひつじ話

都市の攻囲戦で使われる接近機械の大半は、動物の名で示されている。
そのような装置全体は「トルチュ〔亀=亀甲掩蓋車〕」の名で呼ばれていたが、個々の装置は、装置のメカニズムを作る際に技術者や発明家が参考にした動物の身体的、生理的な特性から、馬、猫、ねずみ、モグラ、はりねずみなどという名がつけられた。
接近機械と同様に、攻城機械の大半も動物から名を借りている。
ベリエ〔雄羊〕、ムートン〔羊〕、コルボー〔カラス〕というのは、昔の人々が城壁に穴を開けたり要塞の門を破ったりするのに用いた装置のことである。
そうした攻城機械はふつう、特別な亀甲掩蓋車の下に格納されていたため、トルチュ=ベリエールという名で呼ばれていた。

ずいぶん以前にご紹介した、ローマの破城槌のデザインと命名のセンスについて、ずっと不思議に思っていたのですが、どうもこれは、「羊」に限った話ではないのですね。というわけで、追加というか、フォロー記事を。

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『北方民族文化誌』より「羊」

ひつじ話

雷は孤独な雌羊を流産させるが、群れをなしている羊は流産しない。
風が冷たく吹くときは、雄の子羊を孕むが、暖かい風のときにはこれに反し、雌の子を孕む。
(略)
羊は大群の中でも母羊の鳴き声をききわける。
それで、ききわける(agnoscit)ので子羊はagnus(子羊)と呼ばれる。
(略)
強力な打撃のため血がとどこおったら、その箇所に剥いだばかりの羊の皮をのせると、とどこおりは解消する。
それゆえ、鞭打たれ人に時に同情する刑吏は傷の上に暖かい羊皮をはる。
すると一昼夜でそれが治る。そのためこれは鞭打たれ人の薬と呼ばれている。

以前、オラウス・マグヌス「北方民族文化誌」から、羊の背にのって鶴と戦う小人のお話をご紹介したことがあるのですが、同書からもうひとネタを。「第十七巻 家畜」におさめられた、羊に関する伝承です。
小人の伝承はめぐりめぐって日本にも伝わっているらしい、というお話を、先日、「華夷通商考」のご紹介のさいに触れたところなのですが、この「華夷通商考」の、飲む水で毛色が変わるというお話のほうも、どうも元ネタがあるような気がします。アリストテレースの動物誌とか、プリニウスの博物誌とか。
「北方民族文化誌」の雷や風と出産の関係についての一文は、おそらくプリニウスの引用ですね。

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羊のベビーラッシュ(北海道)

ひつじ春夏秋冬


■ 動画をみる

士別市にある「しずお農場」では、今月13日から羊の出産が始まり、これまで34匹が産まれました。
2?3日で体長はおよそ40センチ、体重が5キロほどに成長する仔羊たちは、母親にお乳をねだる可愛いらしい姿を見せています。
取材中にも2匹の子羊が産まれ、親がまだ湯気がでている子どもの濡れた体を、愛おしそうに触れていました。
羊のベビーラッシュは、来年の4月ごろまで続きます。

ak様から、羊の出産ニュースをお知らせいただきました。ありがとうございます。
出産シーズン、早いですね。そして長丁場。
士別のしずお農場……って、聞き覚えがあると思ったら、以前、母羊の雪中マラソンがニュースになっていた牧場ですね。公式HPを見ると、宿泊施設もあるようです。士別は町じたいが羊好き心をくすぐる土地なので(士別観光協会HP)、いずれ訪れたいものです。

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サンタ・マリア・ノヴェッラ聖堂スペイン人礼拝堂壁画(続き)

ひつじ話

「教会の勝利」
「教会の勝利」(左下部分) 「教会の勝利」(右下部分)
教養あるドミニコ会修道士たちは罪のない地口を好んだが、彼らは創立者である聖ドメニコの名に由来する「ドミニカニス(ドメニコ会)」という呼び名が「ドミニ・カニス」と分けて読めることに気づいた。
これはラテン語で「神の犬」という意味である。
このフレスコ画の底部右隅には、異端との戦いに飼い犬たちを送り出しているドミニクスが描かれている。
黒白の斑の毛色は、ドミニコ会の黒白の修道服を反映している。
ドミニコ会は茶色の修道服を着たフランチェスコ会と神学上の問題点を定期的に論争した。
それゆえ、この絵の底部で黒白斑の犬二匹が茶色の犬をやっつけているのを見ると興味深い。

以前、全体の上方部分のみをご紹介した、サンタ・マリア・ノヴェッラ聖堂スペイン人礼拝堂壁画の下方のあたりを。
修道服の色のお話は、このあたりをご参考にぜひ。

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ブリューゲルの農民観

ひつじ話

前景で大きくその存在感を示す農民に注目しよう。
彼の着用している赤いシャツの色彩も青い海の色との対比で人目を引く。
(略)
他方、羊飼いや釣り人はまったく目立たなく、点景人物のようである。
つまりブリューゲルが労働に没頭している農民をこの構図の実質上の主役としているのである。
(略)
ブリューゲルは「四季版画」シリーズのために下絵素描を制作したとき(実際は《春》と《夏》しか完成させなかったが)、《春》では三月、四月、五月の三ヶ月の営みのうち、菜園や花壇作りに励む農民の姿を最も大きく扱った。
それに対し、四月の羊の毛刈りと五月の運河での遊びははるかに小さく描かれていた。

農民の生活を描くことに高い価値を見いだしたピーテル・ブリューゲルの表現について、森洋子氏の著書から、「イカロスの墜落のある風景」「春」に関しての一文を引用。
ただし、このベルギー王立美術館所蔵「イカロスの墜落のある風景」は、すでに失われたブリューゲル作品のコピーである可能性が高いのだそうですね。こちらの本を読むまで知らなかったのですが。
これまでにご紹介したブリューゲルについては、こちらで。

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ルーベンス「野良の帰り」の複製版画

ひつじ話

「野良の帰り」 「野良の帰り」(部分)
ゲーテとエッカーマンはそうした複製版画の限界には頓着せず、ルーベンスその人の作品を目の前にしているかのように彼の芸術について論じている。
写真による機械的な、それゆえ「正確」な複製に慣れてしまった私たちにとって、版画が原画の代わりを務めるというのは馴染みにくい状況だが、実際には、写真製版の技術が確立される19世紀末まで、他のメディアで実現された構想を伝達することは、版画の主要な役割の一つだったのである。

 「ルーベンスの版画展 ルーベンス工房の版画家たち」カタログ 

以前、ルーベンスの「野良の帰り」と、その複製版画を前にしてのルーベンス評であるエッカーマン「ゲーテとの対話」をご紹介したのですが、その際にゲーテとエッカーマンが眺めたであろう版画がこちらです。
これまでのルーベンスについてはこちらで、ゲーテはこちらでどうぞ。

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フェルディナント・ボル 「アブラハムの犠牲」

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「アブラハムの犠牲」 「アブラハムの犠牲」(部分)
ドルドレヒト出身のボルは、レンブラントの比較的初期の弟子のひとりである。
(略)
本作品はボルの比較的初期に属すもので、1646年のものと考えられる。
ボルの作品の中でも、最も直接的にレンブラントの影響が見られる作品である。
「アブラハムの犠牲」は、レンブラントの周辺でしばしば描かれた主題である。
無論、本作品に直接の想を与えたのは、レンブラントの同主題である。

 「レンブラントとレンブラント派―聖書、神話、物語」展カタログ 

レンブラント・ファン・レインの弟子であるフェルディナント・ボルの「アブラハムの犠牲」(「イサクの犠牲」)です。
以前レンブラント工房の「イサクの犠牲」をご紹介してるのですが、そちらを描いた可能性が高い弟子として、このボルが挙げられているようです。
というわけで、せっかくなので、羊はいませんが、レンブラント自身の「イサクの犠牲」も下に。

レンブラント「イサクの犠牲」

「イサクの犠牲」テーマについては、こちらで。
レンブラントの弟子つながりで、アールト・デ・ヘルデル「神殿の入口」も。

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遊佐未森 「ブルッキーのひつじ」

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遊佐未森 「momoism」
巻毛はくるり つのは渦巻よ
耳のうしろをかいてやろうか

 『momoism』 収録「ブルッキーのひつじ」 

遊佐未森のアルバム『momoism』から、「ブルッキーのひつじ」を。
M・B・ゴフスタイン作、谷川俊太郎訳の童話「ブルッキーのひつじ」にインスピレーションを得てつくられたとのことです。
耳のうしろをかくことが、こんなに愛情表現として適切だとは。
こちらの情報は、ぷっか様からいただきました。ぷっか様からは、ほかにもZABADAKの『私は羊』の情報もいただいております。じつは大昔に一度ご紹介しているのですが、あらためてお薦めを。
どちらも、冬の夜長にあたたかい部屋で聴きたいようなCDですよ。

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サン・ピエル・マッジョーレ教会祭壇画(部分)

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「聖母戴冠」 「聖母戴冠」(部分)
ヤコポ・ディ・チオーネの作だとされる「聖母戴冠」は、14世紀後半に崇拝されていた聖人たちの驚くべき百科全書である。
はっきりと見分けられるように、聖人たちは画面の「背景」にではなく、「前」に配置されており、ほとんど平面的に並んでいる。
聖人たちの顔はみな似ているから、同定は衣服やアトリビュートによる。

フィレンツェのサン・ピエル・マッジョーレ教会に描かれ、現在はロンドンのナショナル・ギャラリーにおさめられる大祭壇画から。右端に子羊を抱いた聖アグネスが。
これまでにご紹介したことのある聖アグネスは、こちらで。

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目覚まし時計「メェークロック」

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「メェークロック」
クオーツアクションめざまし時計
アラームに合わせて時計の上のヒツジがリズミカルに動きます。

もりもとさんから、リズム時計工業の新商品情報をいただきました。ありがとうございます。
アラーム時刻になると、「ジンギスカン」と「メリーさんの羊」が流れるとのこと。……「ジンギスカン」!?

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『ベリー侯の豪華時祷書』より「羊飼いへの告知」

ひつじ話

「ベリー侯の豪華時祷書」 「ベリー侯の豪華時祷書」(部分)
14世紀以来、時祷書の装飾画の一連には、牧夫たちにイエスの降誕を知らせる「羊飼いへの告知」の場面が加えられることが伝統となっていた。
(略)
棒状のものは、ウレット houlette と呼ばれる羊飼い独特の杖で先がシャベル状になっている。
それでさくれや小石をすくい投げて、群れを離れる羊に注意をうながす。
時には、狼や野犬から羊を守る武器にもなる。
彼らの羊の群れには、背中に所有者を示す赤や青のしるしが付けられているのもリアルである。

先日、レンブラントの版画で「羊飼いへのお告げ」をご紹介したところですが、同じテーマでもうひとつ、時祷書の装飾画を。
2月の情景占星学的人体図などをご紹介している「ベリー侯の豪華時祷書」より、「羊飼いへの告知」です。
時祷書は、このほか、「ワーンクリフの時祷書」「エティエンヌ・シュヴァリエの時祷書」などをご紹介しています。

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「子ブタ シープピッグ」

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「子ブタ シープピッグ」
「ぼく、オオカミじゃないよ。」戸の下で、ベイブは言いました。
「ああ、わかってるさ。」老ヒツジはにがにがしく言いました。
「シープドッグ(牧羊犬)って奴だろ? わかってるよ。あたしらをばかにしやがってさ。おまえだって同じだよ、オオカミだ。隙あらば……とねらってる。あたしらを見ればラム・チョップ(子ヒツジ肉)に見えるんだ。あっち行け、オオカミ。」
「ぼく、シープドッグでもないんだよ。」ベイブはそう言うと、麦わらの山によじ登って、手すりごしに下を見ました。

児童文学を。ディック・キング=スミスの「子ブタ シープピッグ」です。 「ベイブ」の原作としてご存じのかたも多いのでは。
引用は、農場にもらわれてきたばかりの子ブタのベイブが、はじめてヒツジたちの一頭と出会う場面です。

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