おしゃべりの樹

ひつじ話

アレクサンダー大王と「おしゃべりの樹」
アレクサンダー大王と「おしゃべりの樹」(15世紀ごろの『シャー・ナーメ』写本ミニアチュア)。
ロジャー・クック『生命の樹―中心のシンボリズム』による。
紀元前四世紀のマケドニア国王アレクサンダー大王のアジア遠征は、まずペルシア帝国への侵攻からはじまりましたが、征服されたペルシアでは、ヨーロッパ各地に発生したアレクサンダー伝説と軌を一にして、かれを英雄としてたたえるイスカンダル(アレクサンダーのペルシア名)伝説が生まれました。
そんな伝説のひとつを物語っていると思われる細密画(ミニアチュア)があります。
イスカンダルが一本の樹を見あげているのですが、なんと! その樹は、おかっぱ頭(?)の人間やら、馬やら駱駝やら豹やら羊やら龍やら……の頭部を枝の先端にくっつけているではありませんか。
このあたまたちは、イスカンダルの野望を戒め、異国の地におけるかれの死を予言しているとのことで、この樹は、「おしゃべりの樹」と名づけられているそうです。

円明園十二生肖獣首銅像関係で二冊をご紹介している中野美代子の著書をさらに一冊。
動物の成る樹というと、やはり植物羊を思い出すのですが、どこかで両者がつながってたりするのでしょうか。

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「狂えるオルランド」第十七歌

ひつじ話

 化け物の住む岩屋の近く、
高く聳えた岩肌のその頂きに、
ほぼ同じ大きさのまた別の岩屋があって、
そこには羊が入れられていた。
その数はとてものことに数え切れぬが、夏にも冬にも、
オルクスは羊を草場に連れて行くとのことだった。
(略)
羊を囲った岩屋に着くと、大きな岩を押しのけて、
羊の群れを外に出し、われらを中に閉じ込めて、
首から吊した笛を吹きつつ、
羊といっしょに草場へと出かけて行った。
(略)
 群れといっしょにわれらも外に出ないようにと、
オルクスは岩穴の戸口にその手を差し渡し、
出口でわれらを捕まえて、背中に山羊の皮やら
羊の毛があれば、そのまま通す。
男も女も、粗い毛皮を身に纏い、
かくも異様な手だてを用いて、外に出た。

イタリアルネサンスの叙事詩、「狂えるオルランド」に出てくるエピソードです。
描かれるのは、盲目にして羊飼いでもある化け物オルクスに捕らわれた王妃を救うために、山羊や羊の毛皮をかぶって脱出をはかる王ノランディーノ一行の奮闘。
ホメーロス「オデュッセイアー」に登場するキュクロープスが下敷きになっているようです。

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「羊を数えて眠る本」

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「羊を数えて眠る本」表紙
ベッドに横たわり、心をしずめて、ゆったりとした気分で本を開いてください。
指示にしたがって羊を数えていきましょう。
まぶたが重たくなってきたら、本を閉じて、そのままお休みください。

もりもとさんから、207ページの本文すべてに、ひたすらぎっしり羊の群れが描かれている本をいただきました。ありがとうございます。
その名も「羊を数えて眠る本」。一応のストーリーはあるのですが、眼目はむしろ、タイトル通り羊たちを数えるほうかと。ミレーを参考にしたかと思われる、淡々とした雰囲気のイラストが気持ちをなごませる一冊です。

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ヒツジのしっぽの煎餅風

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従来、モンゴル遊牧民は煮込んだヒツジの脂肪尾を薄く切って手のひらに載せて噛まずに飲み込む習慣があり、脂肪尾はヒツジ肉のなかでも大切な部分としてみなで分け合って食べる。
近年になって、都会の人びとにもこの脂肪尾をおいしく食べてもらおうと、このような工夫が生まれたと思われる。
材料〕 ヒツジのしっぽ、卵白、干した果物、煎りゴマ、砂糖などを適宜用意しあらかじめ練っておく。
作り方〕 ヒツジのしっぽを薄切りにし、練っておいたあんを薄く伸ばすように載せ、これを卵白にくぐらせて170度のサラダ油でさっと揚げるだけでできあがり。

「世界ことわざ辞典」「十五世紀パリの生活」を読んで以来、美味であるらしい羊の尻尾のことが気になっていたのですが、「世界の食文化 (3) モンゴル」の一章、「内モンゴルの代表的な地方料理」のなかに、こんなレシピがありました。酒のつまみに最適らしいです。

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小川一水 「天冥の標〈2〉―救世群」

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「じゃあ、これで」
ロボットが退場し、今度はふかふかした毛皮に覆われた動物が現れた。華奈子は微笑んだ。
「すてきよ。その格好なら可愛がってあげるわ」
「ありがとう。これからもよろしく」
螺旋型の角を持つ羊が、ぺこりと頭を下げた。
ポッドのはしで赤ランプが点滅し始めた。
「ああ、バッテリーが切れそう。あなた、すごい電気食うわね。ひとまず切り上げてもらえるかしら」
「わかった、退避するよ。じゃあ、また」
「またね」
羊が消えると、華奈子はポッドの電源を落とした。

小川一水の「メニー・メニー・シープ」、続刊が出てます。もう、続きが気になって気になって。
裏表紙には、「すべての発端を描く」という惹句。前巻から一転、一気に時代をさかのぼり、激甚な被害をもたらす感染症と闘う、近未来の人々が描かれます。おおそう来たか、といった展開なのですが、たぶんこれだけでは終わらないんだろうなと。ああ、続きが気に(以下くり返し)。

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エドワード・ヒックス 「ノアの箱舟」

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「ノアの箱舟」 「ノアの箱舟」(部分)
エドワード・ヒックスは1780年、ペンシルヴァニアのクウェーカー教徒の家に生まれ、幼くして母を失い、両親の友人夫妻によって育てられ、後に馬車製造の仕事につくが、馬車の製造には塗装が不可欠なので、同時に、店の看板の絵や飾り文字、チェストや小箱の装飾、椅子の製作を行い、クウェーカー教徒的勤勉さで「平和なる王国」の絵を喜びに満ちて描き、後には説教師にもなって、クウェーカー教の創始者ウィリアム・ペンの理想を説き、かつ理想の王国のイメージを描き、1849年に世を去る。

19世紀アメリカの画家、エドワード・ヒックスの「ノアの箱舟」です。フィラデルフィア美術館蔵。
引用は、金井美恵子の美術エッセイ「スクラップ・ギャラリー」から。

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神戸市立博物館 「トリノ・エジプト展」

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2010年3月20日(土)より5月30日(日)まで、神戸市立博物館で開かれている、「トリノ・エジプト展 ―イタリアが愛した美の遺産―」を観て参りました。
ひつじ度、高いです。

アメン・ラー神に牡羊の頭部を捧げるペンシェナブの像
アメン・ラー神に牡羊の頭部を捧げるペンシェナブの像
新王国時代、第19王朝(前1292?前1186年頃)
テーベ西岸、ディール・アル=マディーナ出土
石灰岩、彩色  高さ:63? 幅:20? 奥行:47?

 「トリノ・エジプト展」カタログ 

こちらの印象的な像のほか、前8世紀から前6世紀頃の、金板に牡羊の頭を型押ししたパーツをつらねた首飾りなどが見応えあり。始まったばかりですので、是非。
こちらの展覧会は、神戸展のあと、
2010年6月12日(土)―8月22日(日) 静岡県立美術館
に巡回が予定されています。

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「随園食単」

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羊頭(ヤントウ 羊頭の細切煮付)
羊頭の毛は浄(きれ)いに去(の)けねばならぬ。
もし浄いにならなければ火で焼き、洗い浄めて切開き、とろけるほど煮てから骨を去り、その口内の老(かた)い皮は皆浄いに去けねばならぬ。
眼玉は二つに割って黒い皮を去り、白い球も用いない。
頭を小塊に切り砕いて、老肥した雌鶏の汁(だし)を取ってこれを煮る。
しいたけと筍の細切り・甜酒(あまいさけ)四匁・醤油一杯を加える。
もし辣(から)いのが好みなら小胡椒十二粒と葱の白根二十段(きれ)を用いる。
もし酸ぱいのが好みなら、米醋一杯を加える。
羊羹(ヤンケン 羊肉の餡かけ汁)
煮熟した羊肉を取って骰子大の小塊に斬り、鶏の汁(だし)で煮て、筍としいたけと山芋との細切りを加えて一緒に煮込む。

羊羹ばなしつながりでもうひとつ。
「中華飲酒詩選」などをご紹介している青木正児訳註による、袁枚の料理書「随園食単」より、獣類の部から羊料理の部分を。
以前ご紹介した「斉民要術」の解説書に載ってた料理よりは、少なくとも「羊羹」のほうは、自力で再現が可能な気がします。おいしそうですし。

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「青いナムジル」

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「青いナムジル」
ナムジルは、内気な子どもでした。めったに口もききません。
けれども、馬や羊とは、兄弟のようになかよくできました。

モンゴルの馬頭琴伝説をもとにしてつくられた絵本です。寮美千子・文、篠崎正喜・画、バー・ボルドー・考証。
青空のような心を持った羊飼いナムジルの、悲恋の物語です。

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ロシア民話 「動物たちの冬ごもり」

ひつじ話

動物たちは道を歩きながらこんなことを話しあった。
「仲間の諸君、どうしよう。冷たい季節がやってくる。どこで暖かい場所を探そうか」
牛はこう言った。
「みんなで小屋を作ろう。さもないと冬になってこごえてしまうから」
羊は言った。
「ぼくは暖かい外套を着てるんだ。ほら、こんなにもくもくしている。このままで冬を越せるよ」
(略)
やがて冷たい冬がやってきて、寒さが身にしみるようになった。
羊はがまんできなくなって、牛のところへやってきた。
「中へ入れて、暖まらせておくれ」
「だめだよ、羊くん。きみは暖かい外套を着てるんだ。そのまま冬を越したまえ。中へは入れてあげないよ」
「入れてくれないなら、ぼくは小屋のまわりをぐるぐる走って、小屋の丸太をつきくずしてしまうからね。」

アファナーシェフ編纂の「ロシア民話集」より、「動物たちの冬ごもり」を。
こんなにわがまま放題の羊ですが、じつはこのあと、彼らを狙う熊と狼と狐を相手に大活躍をするのです。なかなか痛快。

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愛知県美術館 「大ローマ展」

ひつじ話

愛知県美術館で3月22日(月・振休)まで開催中の「大ローマ展 古代ローマ帝国の遺産 栄光の都ローマと悲劇の街ポンペイ」に行って参りました。
あと一週間で終わる展覧会の情報を出してどうするって感じなのですが。
でもこれが。この「ユピテル・アモンの竿秤」のおもりが、たいへん可愛らしいので。
手の中におさまるサイズの神様の頭が、竿秤のおもりとしてさがっているのです。これで商売の信用度が変わったりするんでしょうか。

「ユピテル・アモンの竿秤」
竿秤の一方の腕には目盛りがついており、ユピテル・アモンの頭部をかたどった平衡錘が通してある。
もう一方の短いほうの腕には鈎がついており、そこから4本の鎖で皿が吊るしてある。
商品の重さは、1から10までの目盛りで量れるようになっていた。

 「大ローマ展」カタログ 

ユピテル・アモン(アメン)に関しては、リシマコス銀貨のアレクサンダー大王などをご参考にどうぞ。
「大ローマ展」は、このあと、
2010年4月10日(土)?6月13日(日) 青森県立美術館
2010年7月3日(土)?8月22日(日) 北海道立近代美術館
に、巡回が予定されているとのことです。お近くならば、ぜひ。

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牧畜民と農耕民との対立

ひつじ話

旧約聖書にカインとアベルの物語がある。
(略)この二人の兄弟の争いは、カインによって象徴される農民と、アベルによって象徴される遊牧民との対立を表すものといえる。
(略)
農民は土地で生活しているわけだから、土地に対する所有意識がきわめて鋭敏である。
(略)しかしその点牧畜民は鈍感であって、自分の家畜の大群を引きつれて、平気で農民の所有地を横ぎるようなことをしたのである。
遊牧民の飼養する動物の代表を羊とすれば、定着農民の飼養する動物の代表は豚だといえる。
(略)遊牧民と定着民のあいだにはぬきがたい対立感、憎悪感が存在する。
したがってそこから一方が他方のシンボルを嫌悪し軽蔑するという結果が生れる。
そしてユダヤ教徒、イスラム教徒が豚を不浄視して食べないのは実は彼らがもともと遊牧民だったからだといえるのである。

動物イメージを手がかりに西欧思想を解説する「思想としての動物と植物」から。
カインとアベルについては、「アベルの死の哀悼」ヘント祭壇画(部分)をご参考にどうぞ。

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スペイン移牧祭りの由来

ひつじ話

中世カスティーリャ王国の主要輸出品目であった羊毛は、新鮮で良質な牧草を求めてカスティーリャ王国を長距離移動する牧羊業者によって生産された。
こうした移動性牧羊業が本格化するのは、レコンキスタ運動によりエストレマドゥーラ地方(スペイン中西部)とアンダルシーア地方(スペイン南部)の放牧地が確保された十三世紀後半以降である。
1273年にアルフォンソ10世が長距離移牧業者の全国組織メスタ(移動性牧羊業者組合)を認可ないし追認し、長距離移牧に関する特権や裁判権を付与したことは、移動性牧羊業の発展を裏づけるものであろう。
(略)
通常、牧羊群は夏期放牧地で焼き印と交配を済ませた後、九月に新鮮な牧草を求めて北部スペインを出発した。
20―30日かけて400―1000キロメートル離れた、スペイン中部や南部の冬季放牧地に到着し、そこで新鮮な牧草を与えながら子羊を出産させ、翌年の四月に北部スペインへ戻る。
その途中で剪毛するというのが、通常の移動サイクルであった。

以前、マドリードの街中を行進する羊たちのニュースをご紹介したことがあるのですが、その由来について調べてみました。ほんとに八百年来の伝統なのですね。

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中世ヨーロッパの修道服

ひつじ話

ベネディクト修道会は六世紀に聖ベネディクトによって創設された西ヨーロッパ最古の修道会である。
世俗の財産の一切を拒否し、労働と祈りの二つを掟とする厳しい戒律にしたがい、僧は共同生活を送る、
彼らの黒衣の様子は、映画化されたウンベルト・エーコの『薔薇の名前』を思い起こせばよいのかもしれない。
(略)
清貧と簡素を主張する修道服は黒く染めた布というより、本来は黒い羊の毛を織っただけの粗末な未染色の布だったからである。
(略)
中世では、ベネディクト会修道士を「黒僧」と呼んだのに対し、フランチェスコ会修道士は「灰僧」の名で呼ばれ、すなわち修道服が灰色を帯びていた。
とはいえ基本的には未染色のウール地であるから、現実には白に近いものから褐色がかったものまでヴァリエーションがあり、それぞれの修道服の色を厳密に分けることは不可能である。
(略)
シトー修道会は白い修道服によって「白僧」と呼ばれたが、実際の衣の色はフランチェスコ会修道服と見まがうものもあったにちがいない。
僧服の色は各修道士を区別する記号となったが、多分に観念的なものである。

中世ヨーロッパの色彩感覚について語られた「色で読む中世ヨーロッパ」より、修道士の清貧を示す、未染色ウール地の修道服に関する一章を。

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ベビーラッシュの季節です。

ひつじを見にいく

ak様から、三月なのでヒツジの赤ちゃんの情報をと、北海道はえこりん村子羊記事をお知らせいただきました。
ああっ。たしかにいつのまにかそんな季節です。油断してました。
というわけで、全国の大きな観光牧場HPをめぐって、子羊誕生情報を探して参りました。

子羊のこどもたちが元気に羊舎を飛び回っています
残念ながら 生まれたばかりの赤ちゃんですので
寒いこの時期にはまだお客様にお見せできません
ごめんなさい…
お客様に公開できるまで
もうちょっと待っていてくださいね

今年も赤ちゃん羊が生まれました。
羊館飼育見学棟に会いに来てね!
子羊誕生シーズンは3月中旬頃まで。
※羊館の開館時間  9:00?16:00
70頭のお母さん羊から、合わせて約100頭の赤ちゃんが生まれる見込みです。
ぜひ、羊館飼育見学棟へ会いにいらしてくださいね!

今年初めの赤ちゃんが生まれたのは2月4日。
顔の白いコリデール種でした。
赤ちゃん羊は「ひつじの牧場」にある『ファミリーシープハウス』で誕生します。
運がよければ実際の出産に立ち会えるかも!?
  ●期  間● 4/11(日)まで
  ●時  間● 10:00?16:00
  ●場  所● ひつじの牧場『ファミリーシープハウス』

六甲山牧場のシンボルである羊の出産が、今年もほぼ予定通り2月20日から始まりました。昨年は2月14日から5月13日にかけて、総数122頭(オス58頭、メス64頭)が生まれました。今年もいよいよ出産シーズンに入り、今後ベビーラッシュが続きます。
◆出産からの様子 ◆
平成22年2月20日(土)昼過ぎ、「羊の赤ちゃんが生まれている」との来場者からの連絡で、飼育担当者が駆けつけ羊の親子を見つけました。直ちに母親と一緒に産室へ移動させました。母親は子供のぬれた体をなめたり、面倒を良く見て可愛がっています。なお、子どもはメスで体重が3,500gありました。
◆今後の予定 ◆
子供は順調に育てば4週間程度で、母親と一緒に放牧する予定です。
2/27現在、母羊22頭、子羊はメス17頭、オス12頭です。
これからゴールデンウィーク明け迄出産が続き、100頭ほどの新しい命が誕生する予定です。

どちらのHPでも、かわいい子たちが群れている写真が山ほど見られます。ああ、でもやっぱり現物を見に行かなければ。

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