エジプト美術の羊

コンスラーネプのパピルス、『冥界にあるものの書』、アメンの雄羊
リーダーの雄羊にひきいられて歩く羊たちは、ナイル川の氾濫が残していった泥にまかれた穀物の種をしっかりと踏みかためた。おそらく農業におけるこの役割と、そして生殖力が旺盛だというもっと明白な理由から、雄羊は各地で豊穣の象徴とされ、いろいろな雄羊の神が非常に古くから信仰されていた。中でも重視されていたのが、ヘラクレオポリスのヘリシェフ、メンデスの雄羊神、そしてなんといってもエスナをはじめとする各地で信仰されていた偉大な雄羊のクヌムである。これらの神々にささげられた雄羊はそれぞれの信仰の中心地でミイラにされたが、そういったミイラを描いた絵画は早くも第一王朝のころに現れている。雄羊が太陽と結びつけられたのはわりと早く、新王国時代には最高神アメンも雄羊の姿をとっていた。
エジプト美術に登場する雄羊には二種類あり、種類によってどの神を象徴しているかがわかるようになっていた。最初にエジプトで飼育されたのはオヴィス・ロンギペスという、がんじょうな体格と波形で水平にのびた長い角をもつ種である。クヌムなどの比較的初期の雄羊神や、太陽に関連した姿を描いたものに、この種の羊が使われている。図1はコンスラーネプの葬祭パピルスに、聖なる雄羊として描かれたオヴィス・ロンギペスである。 (略) 『冥界にあるものの書』では、古い大地の神タテネンを、冠をつけた四頭の聖なる雄羊の姿で描いている(図2)が、この雄羊はヒエログリフと同じ形である。
(略)
しかし、このロンギペス種は、後には曲がった角をもつオヴィス・プラティラにとってかわられた。アメン神を描いた絵画などに登場するのはこちらの種である。図3は、カイロ・エジプト博物館にある彩色石灰岩の断片で、下向きの角とほっそりした体格―ロンギペス種よりかなりやせている―をもったプラティラ種の雄羊が描かれ、その上にはいくつかのヒエログリフが書きこまれている。このアメンの雄羊のうつぶせになった姿勢も構図としては独特で、ルクソールのカルナク神殿複合体の、雄羊頭をしたクリオスフィンクスがならぶ参道には、このポーズのアメン神が描かれている。

古代エジプト美術理解のための手引き書から、「雄羊」をひいてみました。
エジプトのひつじイメージについては、ゾロアスター教シュメル文明のお話をしたときに、ちょっとずつ触れてます。アメン神のお話は単独でしてますね。あと、アンモナイトのお話も。

ひつじ話

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