ビュルガー編 「ほらふき男爵の冒険」

いやしかし、綺麗に金のメッキをした駕籠がですナ、円屋根の一番でかいのより更に周囲がある巨大な気球にぶらさがって、ワガハイの舟から二尋ほどのところに、落下してきたときの、ワガハイの驚きをまあ御想像下され。
駕籠には男一人と羊半匹が乗っており、羊はどうやらこんがり焼けているようす。
(略)
ま、そうはいっても目下の彼氏はです、落下のせいでよほど調子が狂ったか、ほとんど一言も口がきけないくらいでありましたが、しばらくたって回復すると、こんな報告をしてくれました。
「 (略) こいつでイギリスのコンウォール岬から飛びあがりました。羊をのっけたのは、上を見上げて口あいてる何千の見物衆の前で、空からひとつ奇術をみせてやろう、と思ったんです。
運悪く上がってからたった十分も経たないうちに風が急に変わりやがって、降りる予定のエクスターの方へ行く代わりに、海の上へ吹き流されちまい、どうやらそれっきりずっと、計測りようもない高いところを漂ったらしいです。
羊の奇術ができなかったのは、幸運てましたね。なにしろ空中飛行も三日目となると、あっしはひどく腹が減りましてね。可哀そうだが羊を殺らざるをえなかった。
その時はお月さんの上空遥かに昇ってまして、それから更に十六時間も上昇すると、遂に太陽にえらく近くなって眉毛が焦げるほどだった。
そこであっしは皮を剥いでおいた羊を、太陽が一番強くあたるところ、つまり言いかえりゃ、気球の影が落ちない所に置きましてね、このやり方で四十五分ばかりもたつと、完全な丸焼一丁あがりってわけで。この焼肉であっしはずっと生きてきました。」

ビュルガー編の『ほらふき男爵の冒険』より、「ミュンヒハウゼン男爵の海の冒険」第四話を。この「そんなバカな」感がたまりません。

ひつじ話

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