山本幸久 「一匹羊」

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大神の勤める縫製工場のまわりにはなにもない。
そこではじめての来客のために、目印として、羊の形をしたアドバルーンをあげることになっていた。
十五年前、大神がはじめてここを訪れたときもそうだった。
明日が快晴であれば、羊が空を飛んでいるので、それを目指してきてください。
詳しい道順を訊こうと庶務に電話をしたときに、そう言われたものである。
雨の日はあげることができないのだ。
ヘリウムガスなので風の強い日も無理である。
近頃はカーナビが普及しているおかげで、羊はずいぶんとご無沙汰だった。

山本幸久の短篇集「一匹羊」から、表題作を。いきなり勇気や元気がもらえるわけではないけれど、まぁ、もうちょっとだけがんばってみるか、みたいな気持ちになれる、そんなお話が詰まってます。

ひつじ話

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