ハインリヒ・ベル 「黒羊」

ぼくは、黒羊(グループの中の異分子、変わり者の意)の系統がぼくの代になって切れてしまうことがないように、選ばれたのに違いない。
誰かいなければいけない。そして、それがぼくなのだ。
誰も、以前にはぼくのことをそんな風に考えた者はいなかったろう。
しかし、だからといって、事実は変えようがない。それがぼくなのだ。
うちの家族の中の悧巧な人たちの説によれば、ぼくがオットー叔父さんから受けた影響がよくなかったのだという。
オットー叔父さんは、先代の黒羊で、ぼくの名付け親だ。
ともかく誰かいなければいけない。そして、それが叔父さんだったのだ。
もっとも、叔父さんが名付け親に選ばれたのは、叔父さんがだめになってしまうことがまだわからなかった時のことだ。
そして、このぼくも親戚の男の子の名付け親をつとめたことがあって、ぼくが黒羊だと思われるようになってからというもの、みんなは、びくびくしながら、この男の子をぼくから遠ざけている。

20世紀ドイツ、ハインリヒ・ベルの短編「黒羊」の冒頭部分です。
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ひつじ話

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