シュトルム 「雨姫」

シュティーネは紡ぎ車をおいて立ちあがると、がっくりしおれていいました。
「やっぱりそうだった。マーレン、あんた、アンドレースの背中にしょってるものが見えなくって? またヒツジが一匹、かつえ死にしたんだよ。」
まもなく、わかいお百姓のアンドレースが部屋にはいってきて、死んだヒツジをどさりと、母親とマーレンの目の前におきました。
「ごらんよ。」
アンドレースはしずんだ声でいって、かっかとほてるひたいの汗を、手でぬぐいました。
ふたりの女は、ヒツジの死がいよりもアンドレースの顔を、じっと見やりました。
「あんまりくよくよしないでね、アンドレース。」 マーレンはいいました。 「あたしたち、雨姫さまを起こすつもりなの。そしたらまた、なにもかもよくなるわ。」

テオドール・シュトルムの童話集『たるの中から生まれた話』より、「雨姫」を。
日照りの続く夏のさかり、雨をつかさどる女神を目覚めさせようと旅に出る少年少女の物語です。

ひつじ話

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