陸粲 「庚巳編」

十六世紀初めの高級官僚のひとりであり、学者でもあった陸粲(1494?1551)が、当事者から直接聞いた次のような話もある。
南京の華厳寺に月堂という僧がいる。
月堂は往年に仏縁をたよって貴州省を遊行したことがあったが、その地に人間を動物の姿に変えてしまう鬼がいることを知った。
男でも女でも羊、豚、驢馬などに自在に変えてしまう。
これらの動物は吸血鬼にされた人間の仮りの姿で、ひとを噛み殺して血をすするのである。
(略)
ある夜、数人の僧たちと共に僧坊に眠っていると、夜も深まったころ部屋の外で羊の鳴き声がして、しばらくすると一頭の羊が入ってきた。
羊は枕をならべて眠っている僧たちの体に鼻をよせて匂いをかぎまわっている。
次は自分のところだと察した月堂は、身近に置いていた錫杖をとると、やおら羊の腰のあたりを力まかせに打ちつけた。
羊はその場に崩れ伏す。と、見るまに羊の姿は裸身の女へと変わっていった。鬼術が破られたのである。

中国の怪異譚が大量に紹介されている「天怪地奇の中国」から、明代の「庚巳編」にある羊の怪異のお話を。
中国の怪異譚は、時代の幅はありますが、「捜神記」「唐代伝奇集」「子不語」などをご紹介しています。
そのほか、吸血鬼つながりで、ジプシーの怪異譚もご参考にぜひ。

ひつじ話

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