「ゲーテとの対話」(続き)

私は口にこそ出さなかったが、むしろ宗教問題についてのさまざまの異論が、昔から人間同士を仲たがいさせ、敵対させている、いやそれどころか、人類最初の殺人さえも、かたよった敬神がもとで起ったのだ、と考えていることに気づいた。
私は最近バイロンの『カイン』を読み、とりわけ第三幕と殺人の動機づけに感嘆した、と話した。
「そうだろう」とゲーテはいった、「あの動機づけは見事なものだ! あれにはこの世ではもう二度と書かれることがないほど、じつに類のない美しさがある」
「『カイン』も」と私はいった、「はじめはイギリスで禁止されたのですが、いまでは誰でも読んでいて、イギリス人でも若い人は旅に出るとき、大ていバイロン全集を携えていますね」
「それも馬鹿げた話だが」とゲーテはいった、「というのも、『カイン』全体のなかにあるのは、つまりはイギリスの僧正たち自身が教えているものにほかならないのだからね」

昨日のルーベンス「野良の帰り」についての対話にひきつづいて、エッカーマン「ゲーテとの対話」からもうひとつ。以前ご紹介したバイロンの「カイン」が、ゲーテによって絶賛されています。

ひつじ話

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