「オデュッセイア」より「第十一歌 冥府行」

さて、われらが大粒の涙をこぼしつつ、悲しみのうちに浜辺の船に向かっている間に、キルケはすでに家を出て、何の造作もなくわれらの横をすり抜け、牡の羊一頭と黒い牝羊一頭とを、黒塗りの船の船側に縛り付けておいてくれていた。
(略)
ここまで来て、船を陸に揚げると羊をおろし、われわれはオケアノスの流れに沿って歩き、やがてキルケの教えてくれた場所についた。
ここでペリメデスとエウリュロコスとが、犠牲獣をつかまえておさえると、わたしは腰の鋭い剣を抜き放ち、縦横それぞれ一腕尺の穴を掘り、その穴の縁に立ってすべての亡者に供養した。
(略)
さて亡者の群に祈って嘆願した後、羊を掴まえ穴に向けて頸を切ると、どす黒い血が流れ、世を去った亡者たちの霊が、闇の底からぞろぞろと集ってきた。

ギリシア神話の英雄オデュッセウスについては、第九歌のキュクロプスとの闘いや「イリアス」「アイアス」の一場面をご紹介しているのですが、こちらは「オデュッセイア 第十一歌」から。
女神キルケの指示に従い、冥府にすむ予言者から帰国のための予言を得んと、オデュッセウスと部下たちが亡者たちの供養を行う場面です。
冥界に入った亡霊たちが、生前の記憶を取り戻したり生者と会話をするためには、犠牲の羊の血を飲む必要があるとのこと。

ひつじ話

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