「転身物語」より「ペリアス」

人びとはさっそく、もう何歳ともわからぬくらい年をとった、肉の落ちたこめかみのところにぐるりとまがった角のある一匹の牡羊を、ひきずってきた。
魔女のメデアは、ハエモニアの短剣をふるって羊のやせた喉もとをえぐると、羊の肢体を強烈な力をもつ薬汁といっしょに青銅の大壺のなかに入れた。
すると、ふしぎや、羊のからだは、みるみるうちに小さくなり、角がとけてなくなり、それとともに老齢も消えてしまった。
やがて、壺のなかから、弱々しい啼きごえがきこえた。
と、その啼きごえにおどろいている人びとの面前に、一匹の仔羊がとびだしてきて、剽軽そうにはねまわったり、乳をのむことのできる乳房をさがしたりした。

以前ご紹介した、オウィディウスの「転身物語」より「イアソンとメデア」。このお話には、メデアを妻としたイアソンが故郷に錦を飾ったあと、敵である王ペリアスをメデアの謀略によって王の娘たちに殺させる、陰惨な章が続きます。
引用は、若返りの秘法があると称して王と娘たちに近づいたメデアが、羊を使ってその証拠を見せる場面。もちろん、王のときには秘法は使われないわけです。
「イアソンとメデア」については、グリルパルツァーの「金羊毛皮」モローの絵などを、これまでにご紹介しています。

ひつじ話

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