酒見賢一「陋巷に在り」の墳羊

 ある事をきっかけに李桓子は孔子を訪問している。「史記」孔子世家のこの部分も、孔子の真意を図りかねる記述であるとして物議を醸すことになる。
 ある日、李桓子が井戸を掘っていると土製の瓶が出てきた。その瓶の中には羊のような動物が入っていた。李桓子はその奇怪な動物の死骸を羊ではなく狗だと思った。
 (略)
「という次第で妙な狗を得たのだが。仲尼殿にはどう思われましょうか」
 こういう妖しい話を孔子に持ち込むということ自体、李桓子が孔子をどういう目で見ていたか分かろうというものだ。
 (略)
「丘の聞く所によりますと、それは狗ではなく羊でありましょう。こう伝え聞いております。『木石(山)の妖怪は(き)(一本足の怪物)と魍魎であり、水の妖怪は龍と罔象(もうしょう)(人食いの怪物)であり、土の妖怪は墳羊(頭が大きく雌雄の分化がされてない畸形の怪物)である』と。だからそれは狗ではなく羊のはずです」
 孔子に似合わない奇怪な返答である。
 (略)
孔子は「霊的な力を振るう」などという事をしりぞけようとした人である。孔子学団にそのようなものを期待されるのは御門違いというべきだった。しかし、この場合は李桓子の歓心を買うために敢えてそれらしい答えをしてみせる必要があったのであろう。

酒見賢一の伝奇小説「陋巷に在り」の中で、以前ご紹介した墳羊のエピソードが使われています。

ひつじ話

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