多岐亡羊
楊先生の隣人が羊を一匹逃がしてしまった。
そこで彼は家中の者どもを引きつれた上に、先生のところの召使まで借りていって、羊のあとを追っかけるという騒ぎ。
先生が「ああ、たった一匹の羊を逃がしただけなのに、どうしてそんなに大勢の人間をかり出して追っかけるのだ」ときかれると、その隣人がこたえた。「なにぶん枝路が多いので。」
やがて一同が帰ってきたから、先生が「羊をつかまえたか」ときかれると、「いや、逃がしてしまいました」という。
「どうして逃がしてしまったのか」ときかれると、「枝路の途中にまた枝路があって、どっちへ逃げたのか分かりません。それで帰ってきたのです」とこたえた。
(略)
「つまりこうだよ。大きな道は、枝路が多いから羊をとり逃がしてしまうし、学問をする者も、やり方がいろいろあるから生き方が分からなくなってしまう。
(略)
ただ根本はみな同じであり一つである原点に立ち帰りさえすれば、「道」と一体となって、利害得失の煩わしさから免れることができるのだ。」
故事成語「多岐亡羊(岐路亡羊)」の出典、列子説符篇の一章です。
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