紙と羊皮紙・写本の社会史
写本聖書は極めて貴重品で中世の修道士たちが自分自身の一冊を持つことなど望むべくもなく、小さな修道院は聖書の一部分を持つのがせいぜいであった。聖書一冊の値段で修道院の設備が全部整ったといわれる時代である。
聖書は何といっても浩瀚な書物だから、一冊の聖書のためには三〇〇匹の羊を犠牲に捧げなければならない。(一匹で四貢分とれる)だから、材料費だけでも莫大なコストの上、その筆写がまた大変な労力を要した。手分けすればともかく、一人単独で聖書を筆写するとなると、一四世紀の例で五年かかった修道士がいる。また一三世紀の例では、四〇才の時に書きはじめ、五〇年後九〇才で完成したという気の遠くなるような話もある。
(中略)
一二世紀以後、ビザンツでは紙が羊皮紙と併せて、次第に多く用いられるようになるが、さりとて羊皮紙を駆逐したわけではない。一一世紀まではすべて羊皮紙であった。羊皮紙の値段は安いとはいえなかった。クランチーは一三世紀初期の写字生の一日の賃金を五ペンス、上等な羊皮紙ベーラムが一ダース一・五シリング、すなわち一枚一ペンスとちょっとであったとしている。一日の賃金で、数枚しか手に入らない羊皮紙はたしかに高価だが、もっと安い粗製の羊皮紙もあったという。それにしても今日の我々にとっての紙代とは、天文学的に違う高さだから、無駄にはできなかった。
羊皮紙でつくられた聖書ですがなんか大変なことになっていたみたいです。一冊で300匹って……。
写字生が用いた道具としては、羊皮紙を削ったりなめらかにするために必要なナイフ、かみそり、軽石、それにインクのにじみを防ぐための山羊の歯(いかなる科学的根拠があるのか不明)、本文頁に界線をひくためのキリ、尖筆、鉛筆、定規、など。それに筆記のための鵞ペンとペンナイフ、インク壷、種々の色インクなどがある。
で、それを写していた人の道具のお話。
山羊の歯はお守りみたいなものなんでしょうか?
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