コクトー 「自画像」

ひつじ話

ギリシャ
そこでは大理石も海も、羊のように縮れていた、
そこでは絡み合った蛇が杖の飾りになっていた、
そこでは残酷な鳥たちが謎をかけてきた、
そこでは牧人が放縦な鷲を追った、

ジャン・コクトーの詩「自画像」より。
羊のような大理石と海、……って、なに? と思っていたら、澁澤龍彦のエッセイに以下のような一節が。

「ギリシア。そこでは大理石も海も、羊のように縮れていた」というジャン・コクトーの詩句があり、その洒落た言い回しが大いに私の気に入っているのだが、こうしたギリシアの印象を実感として把握するには、やはり実際に現地に足を運んでみる必要があるだろう。
アクロポリス美術館のアテナ・ニケ像も、エレクテイオンの屋根を支える少女たちの像も、その大理石の長衣の裾がおびただしい襞となって、まさに「羊のように縮れている」のである。
いや、ギリシアの神殿の円柱そのものが、縦に彫られた数多の条溝によって、縮れているといえるかもしれない。
それは、スーニオン岬から眺めるサロニカ湾の青い海が、微風に細波を立てて、やはり「羊のように縮れている」のと同様である。

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アイリアノス 「ギリシア奇談集」

ひつじ話

羊がライオンを生むこと
コスの人々の伝えるところでは、コス島の僭主ニキアスの羊の群の中で羊が仔を生んだ。
ところが、生まれたのは仔羊ではなくライオンだった。
これは、その時まだ野に在ったニキアスが将来僭主になるという前兆であった、という。

2世紀頃のローマ人アイリアノスによる、軽い読み物を大量に集めた「奇談集」から。

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国立科学博物館 「大哺乳類展 陸のなかまたち」

ひつじグッズ

「大哺乳類展」ポスター
会期 2010年3月13日(土)?6月13日(日)
会場 国立科学博物館(東京・上野公園)
開館時間 午前9時?午後5時(金曜日のみ午後8時まで)
*ゴールデンウイーク特別延長開館:4月29日(木・祝)?5月5日(水・祝)は午後6時まで(ただし4月30日(金)は午後8時まで)
※いずれも入館は各閉館時間の30分前まで
休館日 毎週月曜日(ただし5月3日(月)は開館)

ひつじnewsはまだ見に行っていないのですが(そしてもちろん行く気満々ですが)、ともかくも情報だけでも先に。

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コプト織りの「イサクの犠牲」

ひつじ話

コプト織り
「イサクの犠牲」 コプト製 4?5世紀 羊毛と亜麻 リヨン織物美術館蔵
コプトとはエジプトのキリスト教徒を指すもので、クレオパトラが没して古代エジプト王朝が絶滅し、ローマの支配下に入った紀元後に早くもキリスト教がエジプトにも伝わった。
ローマから東ローマ統治の後、短期間のペルシア支配を経て七世紀にイスラムの占領を受けることとなった。
コプト人のキリスト教は今もつづいているが、三世紀からイスラム時代初期の八世紀までがコプトの織物の盛期であった。

4?5世紀エジプトのつづれ織りです。乾燥地帯ならではの保存状態。
これまでご紹介した「イサクの犠牲」については、こちらで。

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カラヴァッジオ、カピトリーノの「洗礼者ヨハネ」(続き)

ひつじ話

ジローラモ・マッティ枢機卿と兄のチリアーコ、弟アズドゥルバーレもカラヴァッジョの熱心なパトロンとなり、カラヴァッジョは、1601年夏にはデル・モンテ枢機卿のパラッツォ・マダマを出て、マッティ家の邸館に移った。
(略)
チリアーコ・マッティの息子は洗礼者ヨハネを意味するジョヴァンニ・バッティスタという名であったため、これはチリアーコが息子のために注文したものであると考えられてきたが、洗礼者ヨハネにしては、十字架状の杖や洗礼用の椀など、ヨハネであることを示す持物(アトリビュート)が見当たらないのが不自然である。
少年が抱くのが、子羊でなくて角の伸びた牡羊であることも図像の伝統に反する。
そのため、近年では、これはヨハネではないとする説があいついで唱えられ、とくに「解放されたイサク」であるとする説が有力になった。
犠牲に捧げられそうになったイサクが救われて、代わりに犠牲となる牡羊を抱いて喜んでいる場面であるというのである。
少年の座っているのが祭壇であることを示すように、画面左下には火の点いた薪のようなものも見える。

ずいぶん以前にご紹介した、カラヴァッジオの、カピトリーノ美術館蔵の「洗礼者ヨハネ」について、カラヴァッジオの解説本にこのようなお話が。そ、そうだったんですか?
洗礼者ヨハネ関連はこちら、イサクの犠牲についてはまとめてこちらで。イサクの犠牲の聖書該当部分は、これもカラヴァッジオの絵とからめてご紹介しておりますので、こちらでぜひ。

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「陽気なギャングが地球を回す」

ひつじ話

「これが終わったら、ニュージーランドに行くんだ」久遠が嬉しそうに声を上げている。
「また行くのか」助手席の成瀬が苦笑する。
「行くよ。いいところなんだよ、羊は多いしさ」
「羊の肉はうまいか?」と響野。
「食うことばかり考える人は、羊に食べられればいいんだ」久遠が不服そうに言う。

伊坂幸太郎「陽気なギャングが地球を回す」から。
主人公の銀行強盗四人組のうち、人間と動物の関係についてやや特殊な価値観を持つ久遠と、他のメンバーとの会話です。

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アフリカ神話

ひつじ話

トーゴのダゴンバ族は、太陽は市場をもっていて、それは、太陽の周りにカサがかかるときに見られるという。
市場に彼は牡羊を飼っていて、それが足踏みをすると雷が鳴り、尻尾を振ると稲妻が光るのである。
雨は牡羊の尻尾の毛が脱けるのであり、風は牡羊が市場のなかをぐるぐる疾走するときに起こる。
(略)
南部アフリカでは、もしも虹の終わる所を見つけた者がいたら、彼もしくは彼女はできるだけ速く逃げるべきで、さもなくば殺されるといわれている。
(略)しかし、ザンビアのイラ族は、虹を追い払うためにすりこぎで指す。彼らは虹のふもとには火のように燃える凶暴な牡羊がいると考えている。

数年前にドゴン族の神話をご紹介したきりのアフリカ神話ですが、こちらの「アフリカ神話」を読んで、ひつじ話の宝庫であることを知りました。不勉強を恥じ入るばかりです。
にしても、羊と天空の結びつきといえば、つい「柳毅伝」を思い出してしまいます。それぞれの土地で、偶然に似た連想がはたらいたということでしょうか。

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脱獄囚、羊の群れに身を隠し逃亡

ひつじ事件

脱獄囚、羊の群れに身を隠し逃亡
アルゼンチンにて、脱獄囚が羊の群れに身を隠し警察の捜索から逃れたそうだ 。
元ネタによると、受刑者 2 名が厳重警備の刑務所から先週脱獄、現在も逃亡中の模様。2 人は牧場から羊の毛皮を盗み羊の群れに身を隠し、警察の 300 人体制の捜索をかわしたという。地元住民による目撃情報もあったが、これも手助けとはならなかったようだ。
盗んだ毛皮には頭もついていたそうで、捜索にあたった警察官曰く「何千頭もの羊のなかから 2 人を見つけ出すのは不可能に近かった」とのことだ。

カーター卿さんが、スラッシュドット・ジャパンの記事をタレコんでくださいました。ありがとうございます。
リアル左慈! またはリアルイランの小咄! 可能だったんですね、物理的に。
いやしかし、元記事がThe Sunなのか…………それはちょっと……。

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ヴァトー 「羊飼いたち」

ひつじ話

「羊飼いたち」 「羊飼いたち」(部分)
現実から夢への移行を彼に教えたのはジョルジョーネであり、すでにその《田園の合奏》には雅宴画に必要な一切がそなわっている、とルネ・ユイグは言う。
確かにそこには女性がおり楽器があり、緑濃い自然も牧童と羊の組みあわせも認められる。
(略)
「ジョルジョニズモ」の系譜は十六世紀ヴェネツィアの群小画家たち以上にルーベンスからヴァトー、そして印象派(とりわけルノワール)へとたどるべきなのではなかろうか。

ロココ絵画の巨匠、アントワーヌ・ヴァトーの「羊飼いたち」です。
引用にあるジョルジョーネ「田園の合奏」はこちら、これまでのロココ絵画はこちらをご覧下さい。

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「世界の神話百科」より「アメン」

ひつじ話

アメン Amon
エジプトの「神々の王」。
最初は上エジプトのテーベの神で、豊穣の神として崇拝された。
徐々に重要な神とみなされるようになり、もっとも輝かしいファラオを守護する神となった。
2本の羽根をつけたかぶりものを着用したしたかたちで描かれることが多い。
時には雄羊の頭をもった姿でも描かれる。
紀元前2000年紀の第18王朝の頃には、アメンはエジプト全体の最高神となっていた。
そしてアメン・ラーという名で、太陽神と同一人物だとされた。
ただしラーは独自の神として信仰されつづけた。

昨日の「アレクサンドロス大王物語」に続いて、アメン神のお話を。なにをいまさらですが、神話事典から「アメン」の項目を引いてみました。

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「アレクサンドロス大王物語」

ひつじ話

自分の名前を冠した町を、町が永遠にひとびとの記憶に残るためには、どこに建設するべきかを、神から神託を得ようと思った。
すると、アンモン自身が、年老いてはいるが、金髪でこめかみに羊の角をつけたすがたであらわれ、彼にこのように語った。
王よ、羊の角をつけた神ポイボスが汝に告ぐ。
永遠につつがなく汝が若さの盛りを味わいたいならば、
プロテウスの島の対岸に名声に輝く町を建設せよ。

おしゃべりの樹のお話に続いて、アレクサンドロス・ロマンスをもう少し。
エジプトを征服したのち、アンモン(アメン)神の息子を名乗り、アレクサンドリアを建設するための神託を得る場面を、大王の従軍作家カリステネスの作ともされる「アレクサンドロス大王物語」から。
アレクサンドロス大王関係では、他に「プルターク英雄伝」や、リシマコスのコイン同じくカラー写真版を、アンモン神については、ユピテル・アモンの竿秤ヘロドトスの「歴史」などをご紹介しています。

記事を読む   「アレクサンドロス大王物語」

新美南吉 「ぬすびととこひつじ」

ひつじ話

おなかが すいて いる ぬすびとの めに、ふと まるまるした こひつじが 一ぴき、みんなと はなれて あそんで いるのが うつりました。
「あの こひつじは うまそうだ。」
と いって、ぬすびとは その こひつじを こっそり ぬすんで ふところに いれました。
(略)
けれど、こひつじは ころされるとは ちっとも しらずに ぬすびとの かおを みあげて いるので、ぬすびとは きゅうに かわいそうに なりました。
(略)
こひつじは おかあさんの おちちが こいしく なって きて、
「めい めい、おかあちゃん おかあちゃん おちち のみたい。」と なきました。
「こまった やつだな、おれには おちちが でないから やっぱり もとの まきばへ つれてって やろう。」と いって、ぬすびとは ぺこぺこの おなかを おさえながら また もと きた みちを かえって ゆきました。

新美南吉の童話集から、「ぬすびととこひつじ」です。あいだをずいぶん略してしまいましたが、機会があれば、ぜひ全文をお読みになってみてください。心をわしづかみにされてしまいますから。

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「らくだこぶ書房21世紀古書目録」

ひつじ話

「この目録で紹介しておりまする本は、21世紀になりましてから、この50年ほどの間に出版された古本に限ったものでございまして、当然のことながら、そちら様にしてみれば、まだ見たことも聞いたこともない『未来の古本』たち、すなわち来るべき21世紀の古書目録なのであります」
(略)
書名  羊典
著者名  スリーピング・シープ・編
(略)
序文を開いてみますと、
「本書は眠れぬ夜の寝台にて、羊を数えながら、羊のすべてを知る愉しい辞典であります。どうぞ枕元にいつでも一冊。なあに眠れぬ夜にだけ読めばいいんです。枕にもなりますし」
などと、のんびりしたことが書いてありますが、頁をめくっていきますと、写真あり、図版・イラストあり、あらゆる時代の書物や映像から羊たちが渉猟され、じつに素晴らしい編集作業の成果であることが分かります。

「未来の古本」という設定で作られた、クラフト・エヴィング商會による架空の書籍の紹介がつまった一冊、の中の一冊。
いや、ほんとに欲しいんですが、これ。ちなみに、書名は「ひつじてん」と読むようです。

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コードウェイナー・スミス 「ノーストリリア」

ひつじ話

「ノーストリリア」表紙
行こう、雄羊が踊りまわり跳ねまわるところへ
聞こう、雌羊があいさつし、メェーと鳴くのを
急ごう、子羊が駆けまわり、じゃれまわるところへ
見よう、ストルーンが育ち、あふれかえるのを
眺めよう、みんなが世界と富を
  刈りいれ、山と積むのを

コードウェイナー・スミスの長編SF、「ノーストリリア」から。
牧場主であり、また銀河一の富豪ともなった少年が、地球を買い取り、その地で冒険を重ね、恋をして、最後に故郷に帰る前に、恋した相手のために歌う歌です。
引用画像は、絶版になっている文庫の表紙。昨年新装版が出たのですが、表紙が羊じゃないので、ここはあえて古いほうを。

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