『鳥の物語』より、「鷹の話」

「あんたラバンとこ訪ねてきたかね。なに? ベエルシバから。遠いとこよくきたね」
「ラバンさん達者ですかね」
「はあ、達者だよ。おお、あすけ羊つれてくるなラバンとこの娘っ子だよ、ラケルちゅう」
むこうから好いたらしい娘が羊をつれてなにか小声に歌ってくる。日はまだ高い。彼らはこうして皆の羊の群が集るのを待ちあわせ井戸の口を塞いである石をのけて水かうことになっていた。彼女は見るから健康そうにびちびちとして、若さと愛くるしさが衣をとおして迸り出そうにみえる。ラケルはきた。そして旅人のいるのに気がついて歌をやめた。ヤコブはやおら井戸の口の石を転がして伯父ラバンの羊に水かった。

中勘助『鳥の物語』から、もう一話。
「トマス・マンも大作を書いた、『旧約聖書』の「ヨゼフとその兄弟」に取材した」(解説より)、「鷹の話」より、ヤコブのラケルの出会いの場面を。

ひつじ話

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