ケン・フォレット 「大聖堂」

「わたしたちは、なにか仕事をしなければならないの。仕事をして食い扶持をかぜぎ、お金をかせぎ、あなたにふさわしいりっぱな馬を買わなければならないのよ」
「ということは、ぼくに職人の徒弟になれっていうの?」
アリエナはかぶりを振る。「あなたは騎士になるのよ、大工じゃないわ。わたしたち、手にこれといった職もないのに、人に使われず暮らしを立てている人に会わなかったかしら?」
「会ったよ」と、リチャードがだしぬけにいった。「ウィンチェスターのメグだ」
そのとおりである。メグは徒弟奉公をしたわけではないのに、りっぱに羊毛商を営んでいる。だが、メグは市場に出し店をもっているのだ。
ちょうど、さっき道を教えてくれた赤毛の農夫の家のまえを通りかかった。
すでに毛を刈られた四頭の羊が、草地の草を食んでいる。
農夫は刈った四頭分の羊毛を、葦の縄でくくっているところである。
通りかかった姉弟に気づくと、手をふってみせた。
彼のような人びとが、羊毛を町にはこんでゆき、羊毛商人に売るのである。
商人は当然、その商いのための店を構えていなければならないが……
当然、だろうか?
アリエナの頭に閃くものがあった。

十二世紀のイングランドを舞台にした、ケン・フォレットの大河小説「大聖堂」より。
ヒロインのひとりである没落貴族アリエナが、のちに羊毛商人として大成するにいたる、その転機となる場面です。

ひつじ話

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