「動物農場」の羊の冗談

『動物農場』での羊の読み書き能力はかなり低いもので、かれらも〈七戎〉を覚えられず、「よつあしいい、ふたつあしだめー!」のスローガンを与えられる。
(略)
ところが、第十章で、〈七戎〉の第一条と第二条を破って、ブタたちが二本足で歩き出す場面で、羊たちはとつぜん正反対のスローガン、「よつあしいい、ふたつあしめーっぽういい」と唱え出す。
事前にナポレオンが仕込んだとはいえ、ずいぶん安直に逆のスローガンに移れたものだね。
(略)
そう、ぼくの訳文にも仕掛けがある。ふたつならべてくらべてみよう。
よつあしいい、ふたつあしだめー! (Four legs good, two legs bad.)
よつあしいい、ふたつあしめーっぽういい! (Four legs good, two legs better!)
そうそのとおり。羊の鳴き声をしゃれにして訳しているわけだ。
英語原文でいうと、badとbetterのbの音のしゃれだ。
前提になっているのは、英語では羊は「バア、バア baa baa」と鳴くということだね。
マザー・グースの羊が出てくる歌(「バア、バア、ブラック・シープ」など)、またルイス・キャロルの『鏡の国のアリス』で女王様がbetterという語の発音を引き金にして「バア、バア」と言いながら羊に変身してしまうくだりに見られるように、おとぎばなしのなかではおなじみの「語彙」なんだ。

先日ご紹介したジョージ・オーウェル「動物農場」の、翻訳者による解説書から。こちらの本では、また、オーウェル自身による「笑うに値する冗談には、かならずある思想がひそんでいる。それはたいてい破壊的な思想である」との箴言が紹介されています。
なお、『鏡の国のアリス』の原文が未紹介でしたので、下に。

“Then I hope your finger is better now?”
Alice said very politely, as she crossed the little brook after the Queen.
“Oh, much better!” cried the Queen, her voice rising into a squeak as she went on.
“Much be-etter! Be-etter! Be-e-e-etter! Be-e-ehh!”
The last word ended in a long bleat, so like a sheep that Alice quite started.

ひつじ話

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