『イソポのハブラス』より、「狼と羊の譬の事」

ある川ばたにおおかめも羊も水を飲むに、狼(おおかめ)は川かみに居、羊の子は川裾にゐたところで、
かの狼この羊を喰(くら)はばやとおもひ、羊のそばに近づいていふは、
「其方(そち)はなぜに水を濁らいてわが口をば汚(けが)いたぞ」といかつたれば、
羊のいふは、「われは水すそにゐたれば、なぜに川のかみをば濁さうぞ」と。
(略)
その時おおかめ「所詮問答は無?(むやく)ぢや、なんであらうともままよ、ぜひに汝(おのれ)をば、わが夕めしにせうずる」というた。
これをなんぞといふに、道理をそだてぬ惡人にたいしては、善人の道理とそのへりくだりも役にたたず、ただ權柄ばかりを用ようずる儀ぢや。

イソップ寓話のもっとも古い邦訳を。先日ご紹介した『万治絵入本 伊曾保物語』から、さらに少し時期をさかのぼった1593年、九州天草でイエズス会によって作られた『イソポのハブラス』より、『伊曾保物語』と同じく「狼と羊の譬の事」を引いてみました。
これまでのイソップ寓話関連は、こちらで。

ひつじ話

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