「富岡恋山開(とみがおかこいのやまびらき)」

木戸  エエ、それじゃア、あなたが聞き及びました三十間堀の、玉屋の新兵衛さんでござりますか。
新兵  アイ、わしゃア新兵衛でござるが、こなさんは、この神明や浅草でよく見る顔じゃが、内の金太郎と何を争っていなさるのだ。
木戸  なんと申して、私も見世物師じゃア人に知られた要七と申します者でござりまするが、今日の物日を当て込みに、この間両国で見せておりました、羊と人間と角力をとる見世物を、この神明に持って来まして、一ト儲け致しましょうと、羊を引いて来る途中、この方がおれに貸してくれとおっしゃいますが、肝心のこの羊を取られましては困りますゆえ、ならぬと申しますれば、なんでも貸せと無理ばかりおっしゃいますゆえ、それで争っているのでござりますよ。
(略)
新兵  でもみすみす覚えのないものを。
藤兵  それじゃア何ゆえ判を押したのだ。
新兵  サアそれは、
藤兵  サア、
両人  サアサアサア。
藤兵  コレ、証文が物を言うわえ。
ト片手に持って証文を広げる。お梅、伊三郎こなし。新兵衛思入れ。
このとき、見世物小屋より、以前の羊のさのさ出て来て、藤兵衛の証文をくわえてむしゃむしゃ喰う事。

ひつじnewsがリンクさせていただいている、 「Mary & Wool」のしつじ様から、羊が活躍する歌舞伎の演目があるとお知らせいただきました。なんとそんなものが。ありがとうございます。
作者は初代並木五瓶、「富岡恋山開(二人新兵衛)」。主人公の玉屋新兵衛が、彼を逆恨みする藤兵衛に偽の借用書をつきつけられ、おどされる場面です、が、よりにもよって見世物小屋の羊に助けられています。
この羊、おそらく、以前「見世物研究」をご紹介したときに触れた、あの羊ですね。歌舞伎の中に使われるというのは、よほど流行ったのでしょうか。
にしても、どうしてこう、江戸の羊は必ず紙を食うんでしょう。
ところで!
今回のネタをくださった、「Mary & Wool」様ですが、ブログ「つれづれしつじ」にて、現在、一日一匹ひつじイラストを連載されています。全百匹を予定しておられる由。最初の一匹からご覧になることをおすすめします。おかしみとか幸福感とかが、じわじわと来ますから。

ひつじ話

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