マーレル・デイ 「神の子羊」

羊たちはどこなりと好き放題に歩きまわる。
牧草地だろうと、回廊や礼拝堂だろうと、四六時中メエメエと、あたりかまわず羊の賛美歌を響かせている。
儀式としての剪毛日に限らず、修道女たちの羊毛集めは一年中だ。
灌木の間に、聖母マリア像の表面に、あるいは羊たちがぶつかりながら通り抜ける石造物の割れ目の中に、羊毛が引っかかっていた。
羊たちは、修道院中をうろつきまわってはいるが、群れからはぐれることはなかった。
夏は香りのよい草が豊かに茂り、冬の間も羊たちの食欲を満たすのに充分なほどだ。
シスターたちを怖がることもない。
あまりにも長い間一緒に暮らしているおかげで、羊たちは―そんな知能があるとしての話だが―シスターたちのことを、羊飼いではなく、自分たちの仲間だと思っていた。

マーレル・デイの小説です。ジャンルとしては、サスペンスに入るのかどうか、といったあたり。
人生の大半を修道院の中だけで過ごしてきた三人の修道女のもとに、一帯をリゾート地として開発するために教会司教の秘書官がやってきます。事態は非常にスムーズに「ミザリー」的方向にすすむのですが、にもかかわらず、感情移入したくなるのは三人の老女のほうなのがポイント。羊飼ってますし。

ひつじ話

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