聖ベッソ信仰

イタリア北西部の山間で、村人たちに信仰されている聖ベッソという聖者があります。
今世紀の初めR・エルツが親しく調査して、ほんの少し有名になりました。
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聖ベッソの功徳は山の民の全生活領域に及びます。
住民の病気はもとより、家畜の疾病、魔女の呪いに効果があるほか、兵役除けに効験がある。
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この種の加護は「地理的に明確な一点」、「聖ベッソの山」から発します。
標高2047メートルの山岳放牧地に高さ約30メートルに達する岩塊の露頭があって、そこに十字架と小さな祈祷所がある。
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それなら、聖ベッソの来歴はどうかと申しますと、教会の公式伝説では彼はテーベ軍団の一員であったとされています。
辛うじて虐殺を免れた兵士ベッソはこの山国に来て伝道した。
牧童たちが主人の羊を焙っているのを見つけ、盗みの罪を説いたところ、立腹した牧童たちは彼を岩塊から突き落とした。
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エルツがコーニュで採集した、公式伝説から一番離れた話はこうなっています。
ベッソは羊飼いの若者で、常に人里離れた山の放牧場にいて、神に祈りを捧げていた。
羊は彼の囲りに群れて、しかも丸々と肥っていた。
これを妬んだ邪悪な牧童が崖から突き落して殺した。
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彼はさらに進んで、そもそもの源流は「聖ベッソの山」の岩石信仰だったのではないかと推測しました。
今でも年祭の岩めぐり行列は岩塊の神聖な性格を示しているというのであります。
住民の生活の源泉たる山地放牧場と、その上に屹立する巨大な岩塊。そして、よく肥って柔順な羊に囲まれた若者は、山の民のつつましい理想の体現だと言っています。

中世ヨーロッパの民衆の心性について考察がなされた「中世の奇蹟と幻想」から、羊飼いに縁があると思われる聖人のエピソードを。

ひつじ話

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