ツヴァイク 「マリー・アントワネット」

いうまでもなくいまやマリー・アントワネットは、「自然な」庭園、無邪気な風景を作ろうと思う。
しかも新奇な自然風庭園の尖端を行く一番自然な庭園である。
(略)
しかし流行はさらに生粋のものを求める。
自然をもっと極端に自然らしく見せかけ、舞台背景にもっと真に迫った生活そのもののお化粧をほどこすために、この古今東西を通じて最も金目のかかった田園喜劇の舞台に、正真正銘の役者が登場する。
すなわちほんとうの百姓にほんとうの農婦、正真正銘絶対にまがいものでない牝牛や、仔牛や、豚や、兎や、羊までつれたほんとうの搾乳婦、ほんとうに鎌をふり草を刈る人、ほんとうの羊飼いにほんとうの猟師、ほんとうの洗濯女にほんとうの乾酪作りが、ぞろぞろ登場してきて、芝を刈り、着物を洗い、畠を耕し、乳をしぼるという次第で、操り人形芝居が活溌不断に演ぜられる。
(略)
羊を牧場につれて行くのにも青いリボンを使い、女官に日傘をかざさせて、洗濯女が小川のほとりでリンネルを洗いすすぐさまを、女王が見惚れていらっしゃる。
ああ、この簡素のなんという素晴らしさであろう。

先日来、ブーシェの「牧歌的情景」ニコラ・ランクレ「鳥篭」など、ロココの田園趣味についてお話をしているのですが、このあたりでひとつ、その具体的な例を。
シュテファン・ツヴァイクによるマリー・アントワネットの評伝から、小トリアノン宮殿での王妃の暮らしぶりを描いた場面です。

ひつじ話

Posted by


PAGE TOP