宮城谷昌光 「華栄の丘」

「戦いは一日で終わる。よけいな糧食は腹におさめてしまうにかぎる。士に羊をふるまってやれ」
 士は甲兵といいかえてもよい。かれらの夕食に羊の肉を頒けあたえることにした華元は、そうとうなゆとりをもったということである。戦勝の前祝いというにおいさえする。
 甲兵の歓声を耳にするころになって、華元はあわてて士仲を呼び、
「わたしの御者の羊斟には、食わすな」
 と、むずかしい顔で命じた。羊という氏姓をもった者が、羊の肉を食べる、ということに不吉さを感じた。華元の感覚は繊細なのである。羊を食べさせるつもりが、羊に食べられるのはよくない。肉には神霊が宿るという宗教的意味あいにおいて、羊斟だけがその霊力をさまたげるのではないか、と華元の脳裏にひらめいたのかもしれない。
 そのため羊斟だけが、羊料理にありつけなかった。
 翌日は二月十日であり、その日は華元にとって大凶となる。

羊の羮のうらみ(続き)でお話した華元の失敗がどうにも腑に落ちなかったので、宮城谷昌光の小説「華栄の丘」を見てみましたら、このような解釈になってました。ああ、そんな理由で……。

ひつじ話

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