人にも角がはえる?

人にも角がはえる?
メルヴィルの小説『白いジャケツ』には、額から「雄羊のようなひどくねじれた角」をはやした老婦人のことが書かれています。
これはメルヴィルの創作上の想像だったのでしょうか、それともこの老婦人はほんとうに頭から角をはやしていたのでしょうか?
(略)
現代の皮膚科学では、角は上皮細胞が同心円状に層になったもので、からだのどこでもはえる可能性があるとされています。
(略)
1930年代の有名な例では、マダム・ディモンシュというフランス人女性がいました。
〈マザー・ホーン〉と呼ばれた彼女は25センチもの角をはやし、いつも角の重みで疲れていたそうです。
何人もの外科医が角の切除を申し出ましたが、マダムはいつも断っていました。
しかし八十歳近くになってようやく手術に同意しました。
「顔にこんな悪魔のような飾りをつけて」神さまに会いたくないから、という理由でした。

「仰向けに転がって命を落とすことがある」だの、「どうしていつまでも車の前を走りつづけるのか?」だのと、微妙な雑学のネタにもなりやすい羊ですが、今回は人にはえる角のお話です。
メルヴィルの小説のことは知らなかったので、あわせて読んでみました。主人公の乗り組む軍艦の軍医についての章ですね。

第六十一章 艦隊軍医
(略)
なかんずく《病理解剖学》は氏のいみじくも愛するところで、下の個室には見るもおぞましいパリ製の蝋人形の収集が陳列してあったが、(略)これが年配の婦人の首なのだ。
(略)
それほどまでにこの首は秘法めいて悲しくて、流す涙は乾かぬくらい哀れだった。
それでいて、初めてこれを見る君は、こんな情緒など頭を掠めるもんじゃない。
君のありったけの目も、ありったけの魂も、見るもおぞましい、ねじ曲がった、まるで破城槌のような角の異形さにただただ固縛され、凍結させられる。
それは額から下へ向かって生え、顔に半ば陰影を落としている。

破城槌の角、というと、これのことでしょうか。

ひつじ話

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