「中世の城日誌―少年トビアス、小姓になる」

刈り入れのあとのお楽しみ行事
夕陽が射すなか、代官が畑のまん中に立ち、鎌を高く放り投げた。
その鎌が落ちた所までのあいだに、麦の束を置いて輪を作る。
その輪の中心に、代官がメスのヒツジを連れていき、放す。
デイビッドがぼくに、動かずにそっとなりゆきを見守るよう言った。
「もしヒツジが、おん鶏が鳴くまでのあいだ輪の中におとなしくいたら、そんときはおれたちがあのヒツジをもらえるんだ。」
デイビッドは小声でおしえてくれた。
「だがよ、もし、輪からでちゃったら、そんときはあそこの食卓にのっちまうんだ。」     
そう言ってデイビッドはお城の方角を指差した。

13世紀イギリスの城で小姓をつとめる少年を主人公にして描かれる、中世の生活誌です。引用は、「刈り入れを手伝う」との副題がついた9月はじめの風景。領主と、麦の刈り入れを賦役として課された領民たちとの間で行われる、刈り入れのあとの「お楽しみの行事」の場面です。
こちらの本については、ak様から情報をいただきました。ありがとうございます。


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