「雨天炎天」

一度これも東部アナトリアのど田舎で、ものすごい数の羊の群れに道路を塞がれたことがある。
僕らの前にはメルセデスのキャンピング・カーに乗ったドイツ人がいて、彼らもやはり立ち往生している。
とにかく海みたいな羊の群れである。
こんな凄い数の羊を見たのは、あとにも先にもこの時だけであった。
見渡す限り羊・羊・羊である。
ロバに乗った羊飼いが何人かと、大きな牧羊犬がその群れを導いている。
僕らもドイツ人も羊の写真を撮っていた。
すると羊飼いがやってきて、写真撮るんなら金を出せと言う。
ドイツ人はしょうがないな、という感じで金をいくらか払った。
僕らは五本か六本残ったマルボロを箱ごとやった。

村上春樹のギリシャ・トルコ辺境紀行、「雨天炎天」のトルコ編から。
「チャイと兵隊と羊?21日間トルコ一周」の副題がついたハードな旅ですが、というかひどい目にしかあってませんが、不思議と楽しそうに見えるのが、村上春樹っぽいというかなんというか。

ひつじ話

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