『パンタグリュエル物語』より「パニュルジュの羊」

とっさのことで、ゆっくり見ている暇もなかったのだが、突然、どうしたわけかパニュルジュは、何も言わずに、べえべえ啼き喚くその羊を、海のまん真なかへ投げこんでしまった。
すると、他の羊が全部、同じような声音でべえべえと啼き喚きながら、これに続いて列をなし、海のなかへどぶんどぶんと飛びこみ始めた。
羊の群は先を争い、最初の羊の後を追うて飛びこもうと犇(ひしめ)き合った。
これを引きとめることはできない相談だったというのは、各々方も御存じの通り、それがどこへ行こうと、最初の一頭の後に全部がついて行くのが羊の習性だからである。
かるが故に、アリストテレスも、その『動物誌』第九巻で、羊は、世界中で一番暗愚無能な動物だと言っている。

フランソワ・ラブレーの著した「ガルガンチュワとパンタグリュエル」の「第四之書」より、「パニュルジュが、商人とその羊どもを海に溺れさせたこと」です。
登場人物の一人であるパニュルジュは、船旅の途上で乗り合わせた羊商人に侮辱され、復讐を企みます。ならぬ堪忍を重ねた末に商人から羊を一頭買い取ることに成功し、それをそのまま海に投げ込む。つられた他の羊たちとそれを取り押さえようとした商人たちは、みな無惨にも溺れてしまう、というお話。
アリストテレス云々については、「動物誌」の当該箇所をご紹介しています。

ひつじ話

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