屠羊之肆(とようのし)

「屠羊説は居處(きょしょ)卑賤なるも、陳義甚だ高し。子其れ我が為に之を延くに三旌の位(さんせいのくらい)を以てせよ」と。
屠羊説曰く、「夫れ三旌の位は、吾其の屠羊の肆より貴きを知るなり。萬鍾の祿(ばんしょうのろく)は、吾其の屠羊の利より富むを知るなり。
然れども豈以て爵祿を貪りて、吾が君をして妄施の名有らしむ可けんや。説敢て當らず。
願はくは復た吾が屠羊の肆に反らんことを」と。
遂に受けざるなり。
通釈
(王は)「屠羊説は、卑しい身分でありながら、その述べている義理は傑出している。そなたは、私のために、彼に三公の位を与えて召し出してくれ」
と頼んだ。しかし、屠羊説は、
「三公の位をいうものは、私もそれが羊を屠殺する店よりも貴いことを知っています。またその万鍾の俸禄が羊屠殺業の利益よりも多額であることも知っています。
しかし、それだからといって、私が爵位や俸禄を欲張り取って、我が大君にみだりに賞を与えたという悪名を被らせてよいものでしょうか。私はけっして三公の位の名誉に当たりません。
どうか私を羊屠殺の店に帰らせてください」
と言って、またまた辞退し、ついになんの恩賞も受けなかったのである。

 「全釈漢文大系17 荘子 下」 

「荘子」譲王篇より、「ふさわしい分際」を意味する故事成語「屠羊之肆(屠羊説之義)」です。
敗戦による楚王の亡命に付き従った羊屠殺人の説は、王の復帰にともなって恩賞を受けることになりますが、元の職に戻れたことこそが賞である、国都の防衛や回復に働いたわけでもない、と辞退をくりかえし、元の肆(店)に戻る、というお話。
「荘子」からは、「読書亡羊」と、逍遙遊篇より羊角のお話をしています。

ひつじ話

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