雑宝蔵経 「召使いと羊の闘い」

 むかし、一人の召使いの女がいた。いつも主人のためにもっぱら麦と豆を炒る仕事をしていた。主人の家には一頭の羊がいて、すきを狙っては麦と豆を盗み食いしたので、量目が減って、主人に叱られてばかりであった。 (略) そのため女はいつも羊を憎み、しょっちゅう杖で引っぱたいていた。そのため羊も腹を立て、角で彼女を突いてくるのであった。 (略)
 ある日、召使いの女が素手で火を扱っていたとき、羊は彼女が杖をもっていないのを見て、女に向かって突きかかってきた。女は、とっさに手にした火を羊の背に押しつけた。羊は熱がって、ところかまわず突き当たったので、火はまき散らされて村人を焼き、山野にまで延焼してしまった。山中には五百匹の猿が住んでいたが、そこにも火は燃えさかり、逃げるひまもなくて、みるみるうちにみな焼死してしまった。
 天人たちはこれを見て、こうを唱えた。
  瞋恚と闘諍のあるところ
  中途にて歯止めは利かず
  羊と婢との闘いに
  村人と猿は死に絶えたり

 「中国古典文学大系(60) 仏教文学集」 

大量の説話が詰まった仏教経典である「雑宝蔵経」の中の一話です。説話によって教義を学ぶことが本来ではあるのですが、お話のインパクトが大きすぎて、なんだかそれどころじゃなくなりそうです。

ひつじ話

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