「豚は月夜に歌う―家畜の感情世界」  ?善人ヒツジと悪人ヤギ?

 私はケンドリック博士に、羊の視覚的な識別力について尋ねてみた。博士は言う。「羊も人間のように、複雑な視覚的手がかりをもとに互いの顔を識別し、近い種の動物を見わけています。羊の脳の側頭葉には、人間のものととてもよく似た領域が存在し、そこが社会認識の重要な働きを担っています。総体的に見て、彼らは少なくとも五〇種の異なる個体を識別すると考えられますが、正確な数字はもっと多いでしょう。さらに、羊は特定の顔を数年間覚えています。顔に関する羊の認識力と記憶力は、人間と変わらないと言えるでしょう」羊は視力も優れているはずだ。彼らは、ずいぶん遠くからでも私たちをじっと見つめ(もちろん潜在的な捕食者として)、生後一日の子羊でも母親を見わけて、知らない雌の羊をしりぞける。距離があってもこうした認識ができるため、鋭い視覚をもっているとしか思えない。
 羊は集中力が高く、テレビを見ることができるという話をよく聞く。しかし、ただ見ているだけで何の精神活動も行っていないという誤解も多い。けれども、見ているものに注意を傾けるということ自体が、何らかの精神活動を行っている証拠である。

ということですので、馴染みの牧場がある場合はヒツジの前での行動に注意です。
いたずらした小学生のクラス全員分を覚えていたりするかもしれません!
壁に耳ありヒツジに目あり。

 イギリス、ケンブリッジ郊外にあるサンクチュアリ「農場動物レスキュー」ではおもに羊を保護していて、創立者のキャロル・ウェッブは羊をこよなく愛している。私は、彼女ほど羊好きな人物に出会ったことはない。ウェッブの好きな格言のひとつが、マハトマ・ガンディーの「私の心のうちでは、子羊の命も人間の命に劣らぬ価値をもつのです」という言葉だ。
(略)
 ウェッブは、自分のところで面倒を見ている羊(少なくとも一〇〇頭はいる)の名前をすべて覚えていて、羊たちも彼女に親しみを抱いているのが手に取るようにわかった。羊の愛情を読みとるのはかなり難しいが、それは私をはじめとする多くの人間、つまり羊と親密に接したことのない人の話だ。羊たちの抱いている感情が、人間でいう愛情と同じかどうかはよくわからなかったが、彼らは明らかに人間を恐れていなかったし、人を求めているのはたしかだった。私がそばに近づいても、彼らにそっと触れたり優しくなでたりしても、彼らのあいだに座っても、わずかなパニックすら起きなかったし、もっと言うなら迷惑がっている様子もなかった。ウェッブのところにいる羊たちが、人になれていただけだろうか? というよりも羊は、目のまえの人物がどれだけ信用できるかを見きわめているのだと思う。それが経験に基づく判断であるのは言うまでもない。彼らは人を観察して、人間より羊のマナーにのっとってふるまう人だとわかったら、とたんに信頼を寄せるようになる。羊たちに受け入れられたのだ。
 羊に信頼されているかどうか、どうすればわかるのだろう? どうすれば、動物の気持ちを知ることができるのか? もちろん人は、自分のよく知る感情に結びつけて彼らの心を憶測しているにすぎない。けれども、動物が感情をもっているのは事実であって、推測ではない。
豚は月夜に歌う―家畜の感情世界

などなど、色々と楽しいエピソード満載の一冊。
おかしな話が詰まっていますのでまた別の機会にも紹介しようと思います。
ヒツジとヤギの話だけではなく、ブタやニワトリの話も楽しめます。章の見出しは下記の通り。

  1. ブタはあなたを許してくれる
  2. 空を飛ぶニワトリ
  3. 善人ヒツジと悪人ヤギ
  4. ウシがふるさとに帰る日
  5. 水を求めるアヒルのように
  6. ほんとうの幸せ

ひつじ話

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